相続した実家を売ったときの税額は、売値から取得費を引いた残りで決まります。ところが、親がその家をいくらで買ったのかは、多くの場合すぐには分かりません。そこで用意されているのが概算取得費という扱いですが、これは救済措置であって、有利な選択肢ではありません。本記事は国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」をもとに整理したものです。

「取得費が分からないなら5パーセントでいい」という理解は、正確ではあるものの、その先で何が起きるかが抜けています。

通説:「分からなければ5%でよい」

国税庁は次のように定めています。取得費が分からない場合、譲渡収入金額の5パーセントを取得費とすることができます。

対象になるのは、先祖伝来の土地建物で取得費が不明な場合、買入時期が古くて取得費が分からない場合などです。根拠は所得税法33条・38条および租税特別措置法31条の4です。

国税庁の例示はこうです。

> 土地建物を3,000万円で売った場合に取得費が不明のときは、売った金額の5パーセント相当額である150万円を取得費とすることができる

ここまでは、たしかに「5パーセントでよい」です。

JR新大阪駅外観
JR新大阪駅外観

実態:売値の95パーセントが譲渡益になる

同じ例を、引き算の側から見ます。


金額

売った金額

3,000万円

概算取得費(5%)

150万円

差額(譲渡益の元になる金額)

2,850万円

売値の95パーセントが、利益として扱われます。

実際には、ここから譲渡費用(仲介手数料など)を引き、適用できる特例があればさらに控除しますが、出発点が売値の95パーセントであることは変わりません。

親が実際に2,000万円で買っていたなら、本来の譲渡益は1,000万円前後だったかもしれません。契約書が見つからないというだけで、課税の対象になる金額が2,850万円になる、という構図です。

なお、実際の取得費が分かる場合はその実額を使います。ただし実際の取得費が5パーセント相当額より少ない場合は、5パーセント相当額を取得費とすることができます。つまり5パーセントは「下限の保証」でもあります。

計算の骨格—どこに取得費が入るか

譲渡所得は、大まかに次の順で計算されます。

``` ① 譲渡価額(売った金額) ② − 取得費 ← ここが不明だと 5% になる ③ − 譲渡費用(仲介手数料など) ④ = 譲渡所得 ⑤ − 特別控除(空き家の3,000万円控除など、適用できる場合) ⑥ = 課税される譲渡所得 ```

②が小さいほど④が大きくなります。 そして②は、⑤の特例が使えるかどうかとは独立しています。 特例が使えれば⑤で大きく圧縮できますが、使えない場合は②の大小がそのまま税額に出ます

前の記事で整理したとおり、空き家の3,000万円控除は要件が細かく、マンションや同居していた家では外れます。 特例が外れるケースほど、②の取得費が効いてくるという関係になります。

File:Shin-Ōsaka Station.jpg
File:Shin-Ōsaka Station.jpg

編集者の判断—契約書探しは、税額に対する作業として割が合う

ここから言えることは1つです。購入当時の資料を探す作業は、単なる事務ではありません。

相続の手続きでは、戸籍を集め、登記を整え、売却先を選び……とやることが多く、古い書類探しは後回しになりがちです。しかし取得費が確定するかどうかで、課税の対象になる金額が大きく動きます。

探す対象は売買契約書だけではありません。当時の領収書、住宅ローンの書類、購入時の登記関係書類などが手がかりになることがあります。実家の片付けを始める前に、書類の在りかを確認しておくほうが、後から探すより現実的です。

残置物の処分を先に進めてしまうと、書類ごと処分されることがあります。片付けと書類探しの順番は、意識しておく価値があります。

また、相続人が複数いる場合は、誰が保管していたか分からないまま探すことになります。実家だけでなく、兄弟の手元や貸金庫に残っていることもあります。片付けを始める前に一度、相続人の間で「購入当時の書類を持っていないか」を確認しておくと、探す範囲が絞れます。

行動指針—売却の前に確認する順番

1. 購入時の資料を探す。 片付けの前に。売買契約書・領収書・ローン関係書類。

2. 見つからない場合の税額を、5パーセントで概算しておく。 「分からないまま売る」場合の金額を先に把握しておくと、書類探しにどれだけ手間をかけるべきかが判断できます。

3. 空き家の3,000万円控除が使えるかを確認する。 使える場合は譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。取得費が小さくても課税所得が圧縮されることがあります。要件の判定順は空き家の3000万円控除—先に確かめる3つは変えられないで整理しました。

4. 名義の整理と並行して進める。 売却には登記が前提になります。親名義のままでは売れない—売却前に必要な登記は3種類あるを参照してください。

まとめ

5パーセントは救済であって有利ではない。 取得費が不明でも計算はできますが、売値の95パーセントが譲渡益の元になります。

契約書探しは税額に直結する。 実額が分かれば取得費はその金額になります。実額が5パーセントより少ないときは5パーセントを使えるので、探して不利になることはありません

片付けより先に書類を確認する。 処分してしまうと戻せません。

具体的な税額の計算や特例の適用可否は、税務署または税理士へご確認ください。

あわせて読みたい

出典

  • 国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」(2026年8月10日確認)
  • 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(2026年8月10日確認)