相続した空き家を売るときの3,000万円特別控除は、名前が知られている一方で、要件が細かく、使えないケースが少なくありません。しかも要件は「家の側」と「売り方の側」の2系統に分かれていて、性質が違います。本記事は国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」をもとに、判定の順番を整理したものです。

要件の提示—2系統に分かれている

国税庁の要件を、性質で分けると次のようになります。

① 家の側の要件(過去の事実。今から変えられない

#

要件

1

昭和56年5月31日以前に建築されたこと

2

区分所有建物登記がされている建物でないこと

3

相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと

② 売り方の側の要件(これから満たせる

#

要件

4

譲渡時に一定の耐震基準を満たすか、家屋を全部取り壊して敷地を売ること(譲渡後一定期間内に行う形も含む)

5

相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

6

売却代金が1億円以下であること

7

「特別の関係がある人」への売却でないこと/他の特例との重複適用がないこと

なお、譲渡の時期そのものが平成28年4月1日から令和9年12月31日までの期間に収まっている必要があります。

東海道新幹線、新大阪駅、乗換改札
東海道新幹線、新大阪駅、乗換改札

読み方—①を先に判定すると、5分で結論が出る

①の3つは、すべて過去に確定している事実です。今から工事をしても、書類を揃えても変わりません。

つまり、①で1つでも外れたら、②を検討する意味がありません。

にもかかわらず、実務では②から考え始めがちです。「取り壊すべきか」「いつまでに売るか」を先に悩んでしまう。順番が逆です。

①は次の3つで判定できます。

1. 建築年。 昭和56年(1981年)5月31日以前かどうか。登記事項証明書または固定資産税の課税明細で確認できます。新耐震基準の境目と同じ日付なので、覚えやすい区切りです。

2. 区分所有かどうか。 分譲マンションは区分所有建物登記がされているため、原則として対象外です。この特例は戸建てを想定した制度、と考えると外れにくくなります。

3. 同居者の有無。 相続開始の直前に、被相続人以外に住んでいた人がいないこと。親と同居していた場合は、この時点で外れます。 「空き家」の特例なので、亡くなった時点で空き家になる家が対象、という設計です。

比較—よくある「使えると思っていたが外れる」形

①の3つのうち、実際に判定を分けやすいのは2と3です。

ケース

判定

昭和50年築の戸建て、親が一人暮らし

①はすべて満たす可能性が高い

分譲マンション、親が一人暮らし

2で外れる(区分所有登記)

昭和50年築の戸建て、親と同居していた

3で外れる(被相続人以外の居住者)

平成10年築の戸建て

1で外れる(昭和56年5月31日より後)

北大阪では、新大阪・淡路・十三の駅近に分譲マンションが多く、マンションを相続した場合はこの特例を前提にできません。一方、住宅街の古い戸建てであれば、①を満たす可能性が高くなります。

判定を分けるのは、多くの場合3の「同居者がいなかったか」です。建築年と区分所有かどうかは書類で一意に決まりますが、同居の有無は「週の半分だけ泊まっていた」「介護のために通っていた」といった実態の話になり、自己判断で決めにくい部分です。ここが微妙な場合は、早い段階で税務署または税理士に確認しておくほうが、売り方を決めてから覆るより負担が小さくなります。

発車標
発車標

期限の引き方—「3年を経過する日の属する年の12月31日」

②のうち期限は、条文の言い回しが独特なので誤読されやすい部分です。相続開始日から引くと次のようになります。

相続の開始があった日

売却の期限

2023年2月10日

2026年12月31日

2023年11月30日

2026年12月31日

2024年1月5日

2027年12月31日

2024年12月20日

2027年12月31日

「3年後の同じ日」ではありません。3年を経過した日が属する"年"の年末までです。 そのため、同じ年に相続が開始した人は、月がいつであっても期限が同じ日に揃います

さらに、制度そのものの期限(令和9年=2027年12月31日)もかかります。早く来るほうが実際の期限です。 2024年中に相続が開始した場合、個別の期限も制度の期限も2027年12月31日で一致します。

何に使うか—判定の順番

1. ①の3つを確認する。 建築年・区分所有かどうか・同居者の有無。ここで外れたら、この特例は使えません。別の出口を考えることになります。

2. ①を満たしたら、②の期限から逆算する。 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。売却完了までの期限なので、名義の整理と売却活動の両方が中に入ります。名義の整理に何が要るかは親名義のままでは売れない—売却前に必要な登記は3種類あるで整理しています。

3. 耐震か取壊しかを決める。 現況のまま売るだけでは要件を満たさない場合があります。取り壊す場合は解体費用が、耐震改修を選ぶ場合はその費用が判断に乗ります。

4. 相続人の数を確認する。 令和6年1月1日以後に行う譲渡で、家屋および敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合、控除額は2,000万円になります。誰の名義にするかが税額に直結します。

まとめ

要件は2系統。 家の側(変えられない)と売り方の側(これから満たせる)。

先に見るのは家の側の3つ。 昭和56年5月31日以前の建築/区分所有でない/同居者がいなかった。ここで外れたら検討は終わりです。

マンションと同居は外れやすい。 区分所有登記のあるマンションは原則対象外、親と同居していた家も対象外です。

売る・貸す・住む・壊すの4択全体は相続した空き家の4択—売る・貸す・住む・壊すを分ける条件に整理しました。適用の可否は個別事情で変わります。判断は税務署または税理士へご確認ください。

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出典

  • 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(2026年8月10日確認)