相続した実家を売ろうとしたときに最初に止まるのが、名義が親のままであるという点です。売主は所有権の登記名義人である必要があるため、先に名義を移す手続きが要ります。そして関わる登記は相続登記だけとは限りません。本記事は法務省と国税庁の公表資料をもとに、売却の前に整理が必要な3種類の登記を並べたものです。

対象は、北大阪の実家を相続して売却を検討している方です。とくに相続人が他府県に住んでいる場合、戸籍の収集と登記の順番で時間を取られやすい部分になります。

Q1: 売る前に必要な登記は何種類ありますか?

3種類が関わります。 すべてが毎回必要になるわけではありませんが、想定しておく順番はこうです。


登記

いつ必要になるか

被相続人の住所の変更を反映させる手続き

登記上の住所が、死亡時の住所と違うとき

相続登記(所有権を相続人へ)

常に必要

相続人自身の住所変更登記

名義人になった後に引っ越したとき

①が見落とされやすい部分です。登記に載っている住所は、親が最後に登記をしたときの住所です。その後に引っ越していれば、登記上の人物と戸籍上の人物が同一であることを示す必要が出てきます。

親が家を買ったのが数十年前で、その後に転居している場合、この①が最初の作業になります。とくに、実家を建てたあとに一度どこかへ移り、また戻ってきたようなケースでは、登記に残っている住所が現在の実家の住所と一致しないことがあります。

②と③は義務としても定められていますが、①は「登記を進めるために必要になる前提の作業」という性格です。義務の一覧を見ていても出てこないため、売却の段になって初めて分かることが多い部分になります。

リフォーム物件(水色の戸建て外観)
リフォーム物件(水色の戸建て外観)

Q2: 相続人申告登記を出していれば売れますか?

売れません。 ここが最も誤解されやすい点です。

相続人申告登記は、登記名義人について相続が開始したことと、自分がその相続人であることを申し出る制度です(不動産登記法第76条の3)。法務省は「申出をした相続人についてのみ、相続登記の義務を履行したものとみなされます」と説明しています。

つまりこれは義務を果たしたと扱われる制度であって、所有権が移る登記ではありません

期限に間に合わせるために申告登記を出した状態は、義務の面では問題がなくても、売却の面では出発点に戻ったままです。売る段になれば、改めて相続登記が必要になります。

期限の数え方そのものは相続登記の義務化—3年の期限は二つ、過料は裁判所が決めるで整理しています。

Q3: 遺産分割がまとまっていない場合はどうなりますか?

相続人全員の共有という状態になります。この状態でも登記はできますが、売却には全員が関与することになります。

そして、遺産分割が成立した場合には、その日から3年以内に、分割の内容に応じた登記が別途必要になります。法務省は「遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた所有権の移転の登記を申請することが義務付けられました」としています(不動産登記法第76条の2第2項、第76条の3第4項等)。

売る前提で考えるなら、共有のまま置くよりも、誰の名義にするかを先に決めたほうが手数が減ります。 相続人の数は税額にも影響します。空き家の3,000万円控除は、令和6年1月1日以後に行う譲渡で相続人の数が3人以上である場合、控除額が2,000万円になります(国税庁 No.3306)。

JR和歌山駅前(和歌山県)
JR和歌山駅前(和歌山県)

Q4: 売った後に、まだ登記が必要になることはありますか?

売却そのものは所有権移転登記で完了しますが、手放さなかった不動産がある場合は③が残ります

令和8年(2026年)4月1日から、氏名や住所が変わったときの変更登記が義務になりました。変更の日から2年以内で、過料は5万円以下です(不動産登記法第76条の5、第164条第2項)。

相続で名義人になり、その後に自分が引っ越していれば、その義務は名義人である自分にかかります。詳しくは住所変更登記も義務化—2年以内・過料5万円が2026年4月からで扱っています。

Q5: いつから始めればよいですか?

早いほど有利です。理由は2つあります。

戸籍の収集に時間がかかる。 被相続人の出生から死亡までの戸籍を揃える必要があり、本籍地が複数回変わっていれば、その数だけ請求先が増えます。相続人が多い場合はさらに増えます。

税制に期限がある。 空き家の3,000万円控除は、相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡が対象です。登記が終わってから売却活動を始めるのでは、この期限に間に合わないことがあります。

売り方の選択肢は空き家は仲介か買取か—手取りと期間、33万円の特例で読むで整理しました。

まとめ

必要な登記は3種類。 被相続人の住所の反映、相続登記、そして自分の住所変更登記です。

相続人申告登記では売れない。 義務を履行したとみなされる制度であって、所有権が移る登記ではありません。

始めるのは早いほうがよい。 戸籍の収集に時間がかかるうえ、税制上の期限は売却の完了で数えます。

手続きの具体的な要否は事案によって変わります。個別の判断は法務局または司法書士へご確認ください。

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出典

  • 法務省「相続登記の申請義務化について」(2026年8月10日確認)
  • 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」(2026年8月10日確認)
  • 法務省「住所等変更登記の義務化について」(2026年8月10日確認)
  • 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(2026年8月10日確認)