令和6年(2024年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した分譲マンションは、評価方法が変わりました。「区分所有補正率」という補正が導入され、多くの物件で相続税評価額は従来より上がる方向です。背景には、マンションの相続税評価額と市場価格の乖離が平均2.34倍あったという国税庁の調査結果があります。本記事は国税庁の通達・公表資料をもとに、見直し前後の違いと計算の仕組みを整理しました。
新大阪や淡路など北大阪の中古マンションを相続した方、これから相続する見込みのある方を対象にしています。
令和6年1月1日という境界線—見直し前後の評価方法
分岐点は取得の日です。相続なら相続開始日(亡くなった日)が令和6年1月1日以後かどうかで、適用される評価方法が変わります(国税庁タックスアンサーNo.4667)。
項目 | 令和5年12月31日以前の相続 | 令和6年1月1日以後の相続 |
|---|---|---|
家屋部分(区分所有権) | 固定資産税評価額×1.0 | 従来の価額×区分所有補正率 |
土地部分(敷地利用権) | 路線価ベースの価額×敷地権の割合 | 従来の価額×区分所有補正率 |
根拠 | 財産評価基本通達 | 令和5年9月28日付課評2-74ほか(法令解釈通達) |
つまり、計算の土台(固定資産税評価額や路線価)はそのままで、最後に補正率を掛ける1段が追加されたという構造です。
見直しの経緯は時系列で追うと分かりやすくなっています。国税庁が平成30年中に取引された全国の分譲マンションを調べたところ、相続税評価額と売買実例価額の乖離は平均2.34倍、約65%の事例で2倍以上の乖離がありました。評価額と市場価格の乖離が争われた最高裁令和4年4月19日判決の後、乖離への批判が高まり、令和5年1月から6月にかけて有識者会議が3回開かれ、同年9月28日に新しい通達が出されました(国税庁「趣旨について(情報)」)。

評価乖離率—登記簿の4つの数字で決まる値
補正の出発点になるのが評価乖離率です。算式は次のとおりです(国税庁パンフレット)。
``` 評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220 ```
記号 | 内容 | 係数 |
|---|---|---|
A | 築年数(1年未満の端数は1年に切上げ) | ×△0.033 |
B | 総階数指数=総階数(地階除く)÷33(小数点以下第4位切捨て、1超は1) | ×0.239 |
C | 専有部分の所在階(メゾネットは低い方の階、地階は零階) | ×0.018 |
D | 敷地持分狭小度=敷地利用権の面積÷専有部分の床面積 | ×△1.195 |
4つとも、登記事項証明書に載っている数字(新築年月日・階建て・所在階・床面積・敷地面積・敷地権の割合)から計算できます。
算式の性質を読むと、築年数(A)だけがマイナス方向に効き続ける変数です。一方、総階数と所在階(B・C)は高いほどプラスに働き、敷地持分狭小度(D)は敷地の持分が小さい高層物件ほどマイナスの絶対値が小さくなります。高層・高層階・築浅ほど乖離率が大きく、補正がかかりやすい構造です。なお、この係数は国税庁が取引事例の重回帰分析から導いたもので、コロナ禍前の平成30年分のデータをあえて使ったと趣旨情報に明記されています。
評価水準と区分所有補正率—市場価格の6割ライン
評価乖離率が出たら、その逆数(1÷評価乖離率)を「評価水準」とし、次の3区分で補正率が決まります。
評価水準 | 区分所有補正率 |
|---|---|
0.6未満 | 評価乖離率×0.6(評価額が上がる) |
0.6以上1以下 | 補正なし(従来の評価額のまま) |
1超 | 評価乖離率(評価額が下がる) |
「0.6」という数字には根拠があります。一戸建ての相続税評価額は市場価格のおおむね6割水準(乖離は平均1.66倍)であり、マンションだけがそれを下回ると一戸建てと比べて著しく有利になるため、少なくとも市場価格の6割水準にそろえて均衡を図るという考え方です(国税庁「趣旨について(情報)」)。
見落とされがちですが、評価水準が1を超える場合、つまり従来の評価額が市場価格の理論値より高かった場合は、逆に評価額が下がる補正もあります。また、評価乖離率が零または負数になった場合は評価しない(評価額ゼロ)という定めも置かれています。

国税庁の計算例—1,500万円が2,211万3,000円に
国税庁パンフレット掲載の計算例をそのまま示します。物件条件は、築15年・11階建て(地下1階付き)・所在階3階・専有面積59.69平方メートル・敷地面積3,630.30平方メートル・敷地権の割合115万分の6,319です。
- A=15年×△0.033=△0.495
- B=(11÷33=0.333)×0.239=0.079
- C=3階×0.018=0.054
- D=(19.95平方メートル÷59.69平方メートル=0.335)×△1.195=△0.401
- 評価乖離率=3.220-0.495+0.079+0.054-0.401=2.457
評価水準は1÷2.457≒0.407で0.6未満のため、区分所有補正率は2.457×0.6=1.4742です。見直し前後を並べると次のようになります。
項目 | 従来の評価額 | 補正後の評価額 |
|---|---|---|
区分所有権(家屋) | 500万円 | 737万1,000円 |
敷地利用権(土地) | 1,000万円 | 1,474万2,000円 |
合計 | 1,500万円 | 2,211万3,000円 |
同じ部屋・同じ固定資産税評価額・同じ路線価でも、相続開始日が令和5年末か令和6年初かで、評価額が711万3,000円(約47%)変わる計算です。相続財産が基礎控除を超えるかどうかの判定にも直結するため、控除額の考え方は相続税の基礎控除の仕組みもあわせてご覧ください。
築年数だけを動かした編集部試算—補正が外れる境界
ここからは本記事の独自整理です。国税庁計算例の建物条件(総階数11階・所在階3階・敷地持分狭小度0.335)を固定すると、評価乖離率は「2.952-0.033×築年数」に単純化できます。築年数という時間軸だけを動かして、補正のかかり方を並べてみます。
築年数 | 評価乖離率 | 評価水準 | 区分所有補正率 | 従来比 |
|---|---|---|---|---|
築15年 | 2.457 | 約0.407 | 1.4742 | 約+47% |
築25年 | 2.127 | 約0.470 | 1.2762 | 約+28% |
築38年 | 1.698 | 約0.589 | 1.0188 | 約+2% |
築39年 | 1.665 | 約0.601 | 補正なし | ±0 |
この条件では築39年が補正の消える境界です。築38年と築39年の1年差で、評価水準が0.6のラインをまたぎます。机上の計算を延長すると、同条件で評価乖離率が零以下(評価しない扱い)になるのは築90年という結果も出ますが、これはあくまで算式上の話です。
ただし、総階数・所在階・敷地持分が変われば境界の築年数も動きます。新大阪駅周辺に多いタイプの高層・高層階の物件は補正がかかりやすく、淡路や上新庄の住宅地で見られる中低層・築古の物件は補正なし圏に入る場合もある、というのが算式から読める傾向です。個別の物件がどちらに落ちるかは、必ず実際の数字で計算してください。
北大阪で相続するときの確認手順
実務の手順は3段階に整理できます。
1. 登記事項証明書を取得する。 種類(「居宅」を含むか)・新築年月日・総階数・所在階・専有部分の床面積・敷地面積・敷地権の割合が計算材料です。法務局で誰でも取得できます。北大阪の管轄や相続登記の窓口は相続登記の管轄と手続き窓口で整理しています。
2. 計算明細書で区分所有補正率を出す。 国税庁が「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」(様式B2-6)を公開しており、数字を転記すれば端数処理込みで計算できます。
3. 適用の有無を確認する。 地階を除く総階数2以下の低層集合住宅、専有部分3室以下で全てを親族が居住用にする二世帯住宅、事業用テナント、区分建物の登記がない一棟所有の賃貸マンションなどには、この通達は適用されません。また、賃貸中の部屋(貸家・貸家建付地)の評価や小規模宅地等の特例は、補正後の価額を基に計算します。
評価額は相続税だけでなく、売る・持ち続けるの判断材料にもなります。ただし本記事は公表資料の整理であり、個別の評価額の算定や申告の要否は、税理士または管轄の税務署にご確認ください。
まとめ
本記事のポイントを整理します。
- 令和6年1月1日以後に相続・贈与で取得した分譲マンションは、区分所有補正率を掛ける新しい評価方法が適用される
- 評価乖離率は築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度の4要素と定数3.220で決まり、材料は登記事項証明書でそろう
- 評価水準が0.6未満なら評価額が上がり、1超なら下がる。0.6は一戸建て(乖離平均1.66倍)との均衡から置かれた数字
- 国税庁の計算例では評価額が1,500万円から2,211万3,000円へ約47%上昇。編集部試算では同条件なら築39年が補正の境界
最新の取り扱いは国税庁ホームページ(タックスアンサーNo.4667ほか)でご確認ください。
※ 本記事の情報は2026年8月時点の公表資料に基づきます。
あわせて読みたい
出典
- 国税庁 タックスアンサーNo.4667「居住用の区分所有財産の評価」(2026年8月30日確認)
- 国税庁「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達・令和5年9月28日付課評2-74ほか)(2026年8月30日確認)
- 国税庁パンフレット「『居住用の区分所有財産』の評価が変わりました」(令和5年11月)(2026年8月30日確認)
- 国税庁「『居住用の区分所有財産の評価について』(法令解釈通達)の趣旨について(情報)」(2026年8月30日確認)
- 国税庁「B2-6 居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」(2026年8月30日確認)


