実家の登記名義が亡くなった祖父のまま——登記されない相続が二重三重に重なったこの状態は「数次相続」と呼ばれます。原則は古い相続から順にたどって登記しますが、途中の相続を1件にまとめられる場合もあります。義務化の期限は祖父の代の相続にも及び、2024年4月1日より前の相続分は令和9年(2027年)3月31日が区切りです(法務省)。本記事は法務省・法務局の公式情報をもとに、進める順番を整理しました。

「数次相続」という状態—国の記載例は35年放置を想定

法務局が公開する登記申請書の記載例は、数次相続をこう説明しています。「第1の相続が開始し、その相続の登記が未了の間に、その相続人が死亡して第2の相続が開始した場合」(法務局記載例)。祖父が亡くなり、登記しないまま父も亡くなった、という典型がこれにあたります。

意外なのは、この公式記載例の設定です。平成2年(1990年)3月に亡くなった人の相続登記を、令和7年(2025年)7月に申請する例になっています。つまり35年間の放置が、国の様式集にそのまま想定されているということです。それだけ珍しくない事態だと読めます。

昭和期に区画された住宅地が広がる東淀川区・淀川区で実家を受け継ぐ場合も、「買ったのは祖父の代、名義もそのまま」という状態は起こり得ます。名義が古いこと自体は珍しくありません。問題は、時間の経過とともに手続の中身が膨らんでいくことです。

新大阪駅
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一世代ごとに増える3つのもの—当事者・戸籍・登記の段数

数次相続で増えるのは登記の件数だけではありません。編集部で公式資料の要求書類を時系列に並べ直すと、世代を経るごとに増えるものは3つあります。遺産分割協議の当事者、集める戸籍の通数、たどるべき相続の段数です。

当事者の増え方を、家族構成を仮定したモデルで示します(本記事の独自整理。実際の相続人の範囲は戸籍で確定します)。

時点

何が起きるか

協議の当事者(モデル)

祖父の死亡直後

祖母と子3人が相続人

4人

10年後、父(子の1人)が死亡

父が抜け、母と孫2人が加わる

6人

さらに叔父(子の1人)が死亡

叔父が抜け、叔母といとこ2人が加わる

8人

ポイントは、死亡のたびに「1人が抜けて複数人が入る」ため、当事者が段階的にしか増えないように見えて、後戻りできない形で膨らむことです。会ったことのないいとこの署名が必要になる、というのはこの構造から生じます。

戸籍も同じ構造で積み上がります。相続登記では、亡くなった人1人につき「出生から死亡までの経過の記載が分かる戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)、除籍全部事項証明書(除籍謄本)等」の一式と、相続人全員の現在の戸籍が必要です(法務局記載例)。相続が1段増えるごとに、この一式が丸ごと1人分追加されます。除籍謄本や改製原戸籍は大阪市の窓口で1通750円のため(大阪市)、通数の増加はそのまま費用と収集期間に響きます。

この負担は国も認めています。法務省のQ&Aは、過料を科さない「正当な理由」の例として「相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合」を挙げています。裏を返せば、そこまで膨らむ前に動くのが合理的です。

義務化の期限—祖父の代の相続にも2027年3月31日

相続登記は2024年(令和6年)4月1日から法律上の義務になりました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が原則です(法務省)。制度の全体像は相続登記の義務化—3年の期限と過料の仕組みで整理しています。

数次相続で重要なのは経過措置です。施行日より前に開始した相続——祖父の代の相続も含めて——も義務化の対象で、登記していない場合は令和9年(2027年)3月31日までに相続登記をする必要があります(法務省)。「古い相続だから対象外」にはなりません。

正当な理由がないのに期限内に申請しなかった場合、10万円以下の過料が科されることがあります(法務省)。前述のとおり戸籍収集に時間がかかる事情は正当な理由の例に挙げられていますが、それは免除ではなく猶予の話です。

JR新大阪駅外観
JR新大阪駅外観

登記を進める順番—原則は相続ごと、1件で済む場合

進め方の原則は、古い相続から順にたどることです。祖父から父へ、父から自分へと、相続の経過どおりに登記を重ねます。登録免許税は申請ごとに課税価格(固定資産課税台帳の価格)の1000分の4がかかります(法務局記載例)。

一方で、法務局の数次相続用記載例には、2つの相続を1件の申請にまとめる形が示されています。原因欄に「平成2年3月21日法務春夫相続 令和7年6月20日相続」と2段で書く方式です。ただし同じ記載例に、はっきりした限定が付いています。

> 最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません。(法務局記載例)

つまり1件にまとめられるのは、途中の相続で権利を取得した人が1人に絞られている場合に限られます。自分のケースがどちらにあたるかは戸籍と遺産分割の内容を突き合わせて判断する必要があり、ここは司法書士に相談する価値が大きい部分です。

なお、淀川区・東淀川区の不動産を管轄する登記所は大阪法務局北出張所(大阪市北区西天満1丁目11番4号)です(大阪法務局)。管轄の調べ方は北大阪の相続登記はどこへ—管轄法務局の確認方法にまとめています。

戸籍集めの段取り—広域交付と大阪市の窓口

数次相続の実働の大半は戸籍集めです。ここは2024年に大きく変わりました。令和6年3月1日施行の改正戸籍法により、本籍地が遠方でも最寄りの市区町村窓口で戸籍証明書を請求でき、本籍地が全国各地に散らばっていても1か所でまとめて請求できます(法務省)。請求できるのは本人・配偶者・直系尊属(父母・祖父母など)・直系卑属(子・孫など)で、窓口に本人が出向き、運転免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きの本人確認書類を示す必要があります。

大阪市では、区役所の窓口サービス担当課・出張所などが受付窓口です。梅田・難波・天王寺のサービスカウンターでは請求できず、郵送や委任状による代理人請求もできません(大阪市)。さらに、過去の除籍謄本や改製原戸籍は交付までに長時間かかる状況にあり、当日渡しできない場合がある、と大阪市は案内しています。数次相続で必要になるのはまさにこの古い戸籍が中心のため、1回の来庁では受け取れない前提で早めに動く、というのが編集部の実務的な整理です。

集めた戸籍は、法定相続情報一覧図にして法務局の証明を受けておくと、以後の申請で戸籍の束の代わりに使えます(法務局記載例)。相続が多段の場合ほど、この一手間が後で効いてきます。

ただし、コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍は広域交付の対象外です(法務省)。古い相続をたどる数次相続では、結局本籍地への請求が残る場合もあります。

間に合わないときの相続人申告登記

遺産分割の話し合いがまとまらず、期限内の相続登記が難しい場合には、相続人申告登記という簡易な手続があります。特定の相続人が単独で申し出ることができ、法定相続人の範囲や割合の確定が不要で提出書類も少ない、と法務省は説明しています。申出をした相続人は、相続登記の義務を履行したものとみなされます(法務省)。

ただし注意点があります。相続人申告登記は「不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要がある」とされています(法務省)。そのため、実家の売却まで見据えているなら、申告登記で止めずに相続登記まで進める段取りが必要です。売却前に必要な登記の種類は親名義のままでは売れない—売却前に必要な登記は3種類あるで整理しています。

まとめ

本記事のポイントを整理します。

  • 祖父名義のままの実家は「数次相続」の状態。国の記載例は35年放置の事例を想定するほど、珍しい話ではない
  • 世代を経るごとに、協議の当事者・戸籍の通数・相続の段数が後戻りできない形で増える
  • 義務化の期限は過去の相続にも適用され、未登記なら2027年3月31日が区切り
  • 原則は相続ごとに登記。途中の相続の取得者が1人なら1件にまとめられる場合があり、判断は司法書士へ
  • 戸籍は広域交付で最寄り窓口からまとめて請求できるが、古い戸籍は交付に時間がかかる前提で早めに着手

制度の詳細は変わることがあります。最新の内容は法務省・法務局の公式ページと、個別の手続は司法書士や管轄法務局(淀川区・東淀川区は大阪法務局北出張所)にご確認ください。

※本記事の情報は2026年8月時点の公式公表資料に基づきます。

あわせて読みたい

出典

  • 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」(2026年8月30日確認)
  • 法務省「相続人申告登記について」(2026年8月30日確認)
  • 法務局「不動産登記の申請書様式について」(2026年8月30日確認)
  • 法務局「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)(数次相続)記載例」(2026年8月30日確認)
  • 法務省「戸籍法の一部改正(戸籍証明書等の広域交付)」(2026年8月30日確認)
  • 大阪市「大阪市外の他市区町村の戸籍証明書の交付請求(戸籍証明書等の広域交付)」(2026年8月30日確認)
  • 大阪法務局「北出張所」(2026年8月30日確認)