入居者が住んでいる実家を相続したら、契約はどうなるのか。預かっている敷金は、毎月の家賃は誰のものか。答えの骨子は3つです。賃貸借契約と敷金を返す義務は相続と同時にそのまま引き継がれ、遺産分割前の家賃は法定相続分で各相続人の所得になり、亡くなった親の分の所得は4か月以内に準確定申告をします。本記事は民法(e-Gov法令検索)と国税庁の公式情報をもとに、相続発生からの実務の順番に沿って整理したものです。

淀川区や東淀川区には、親の代から一戸建てや小さなアパートを貸してきた家が少なくありません。「新大阪に通勤する会社員に貸している親のマンション」を相続するようなケースを想定して読み進めてください。

相続した瞬間から始まっている「大家の仕事」

民法896条は、相続人は相続開始の時から「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています(e-Gov法令検索)。賃貸中の家でいえば、建物の所有権だけでなく、賃貸人(大家)としての契約上の立場も、権利も義務も、まとめて引き継ぐということです。

そのため、契約を結び直す必要はありません。入居者から見れば、大家が親から子に代わっただけで、住み続ける権利はそのまま続きます。逆にいえば、相続人の側も「貸すつもりはなかった」という理由で契約を無かったことにはできません。

家賃を受け取る権利と、修繕に応じる義務、そして後述する敷金を返す義務。この3つがセットで手元に来ている、というのが相続直後の正確な現在地です。

新大阪 街並み
新大阪 街並み

敷金は収入ではなく「返す義務ごと預かるお金」

敷金とは、民法622条の2で「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されています(e-Gov法令検索)。保証金という名目でも、実質が同じなら敷金です。

ここで意外な事実をひとつ。民法は明治29年(1896年)に公布された法律ですが、「敷金」の定義が条文に登場したのは2020年4月1日施行の改正からです。法務省のパンフレットによれば、改正前の民法には敷金の定義や返還請求権の発生時期についての規定がなく、長らく実務と判例で運用されてきました(法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」)。

売買で貸家の所有者が代わる場面については、民法605条の2が、賃貸人たる地位は譲受人に移転し、敷金の返還に係る債務も譲受人が承継すると明文で定めています(e-Gov法令検索)。相続の場合は、先ほどの896条により一切の権利義務を承継するため、敷金を返す義務も相続人が引き継ぎます。親がすでに使ってしまっていても、返還の場面で義務を負うのは相続人です。

実務としては、まず賃貸借契約書で敷金の額を確認し、遺産分割の話し合いでは「この家には返還予定の敷金という負債が付いている」ことを織り込んでおくのが安全です。退去時の精算の考え方は敷金返還の実務で詳しく整理しています。

2020年より前の契約という落とし穴

親の代からの契約では、もうひとつ確認すべき点があります。契約を結んだ時期です。

法務省の説明では、改正民法の施行日(2020年4月1日)より前に締結された賃貸借契約には原則として改正前の民法が適用され、施行日後に当事者が合意によって契約を更新したときは改正後の民法が適用されます(法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」)。親が貸し始めたのが平成なら、契約書の日付と更新の経過によって、適用されるルールが変わり得るということです。

敷金や原状回復をめぐって入居者と見解が分かれたときは、この適用関係が出発点になります。個別の判断は契約書を持って弁護士など専門家に確認してください。

新大阪駅新幹線ホームの駅名標
新大阪駅新幹線ホームの駅名標

遺産分割前の家賃—法定相続分で各自の所得

相続人が複数いて遺産分割協議がまとまるまでの間も、家賃は毎月入ってきます。この家賃の扱いについて、国税庁は明確な取り扱いを示しています。

遺産分割が確定していない相続財産は各共同相続人の共有に属し、そこから生ずる所得は各共同相続人にその相続分に応じて帰属する、というのが国税庁の整理です(タックスアンサーNo.1376)。相続人の1人が代表して家賃を管理している場合でも、税務上は法定相続分で頭割りした金額が、それぞれの相続人の不動産所得になります。

さらに重要なのは、後から遺産分割がまとまっても遡らないことです。国税庁は、分割の確定を理由とする更正の請求や修正申告はできないとしています(同)。協議の結果この家を相続しなかった人も、未分割期間の家賃は自分の所得として申告した内容のままです。「分割が決まってからまとめて精算すればよい」という感覚でいると、申告漏れになりかねません。帳簿と申告の基本は大家の不動産所得と青色申告にまとめています。

最初の締切は4か月—準確定申告

亡くなった親自身の所得の申告も残っています。年の中途で死亡した場合、その年の1月1日から死亡した日までの所得と税額を計算し、相続人が申告・納税します。これが準確定申告で、期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です(国税庁タックスアンサーNo.2022)。

家賃収入のある親なら、死亡した年の家賃について、この準確定申告が最初の税務の締切になります。相続人が2人以上いるときは、連署で1通を提出する方法と、各相続人が別々に提出する方法があります(同)。提出先は被相続人の死亡当時の納税地の税務署で、実家が北大阪なら親の住所地を管轄する税務署です。管轄は国税庁サイトで検索できます。

減価償却や固定資産税の按分など、計算の細部は個別性が高いため、期限が短いこともあわせて、早めに税理士へ相談することをおすすめします。

相続発生からの実務の順番(編集部の独自整理)

ここまでの内容を、動く順番に並べ直します。判断の軸は「期限があるものから先に、遺産分割を待たずに動く」です。家賃と申告は分割協議を待ってくれない、というのが本記事の結論です。

時期

やること

根拠・注意

相続直後

契約書・敷金額・入居者と管理会社の確認、家賃振込先の整理

契約と敷金返還義務は承継済み(民法896条)

4か月以内

親の1月1日〜死亡日分の準確定申告

国税庁No.2022

分割協議中

家賃の入金記録を分けて保存。各自が法定相続分で申告する前提で準備

国税庁No.1376。後から遡れない

協議がまとまったら

遺産分割協議書に敷金返還債務の扱いを織り込む。相続登記へ

登記には申請義務あり(下記記事参照)

窓口はひとりに一本化して構いませんが、「管理する人」と「所得が帰属する人」は別という点だけは分けて考えてください。代表者の口座に家賃を集めても、未分割期間の申告は法定相続分で各自に発生します。この区別が、相続人間のもめごとと申告漏れの両方を防ぎます。

相続登記の期限と手続きは相続登記の義務化を、大阪市内の申請先は北大阪の相続登記の管轄をご覧ください。

まとめ

本記事のポイントを整理します。

  • 賃貸中の家を相続すると、大家の地位は権利も義務も丸ごと引き継がれる(民法896条)
  • 敷金は返す義務ごと承継する。2020年施行の改正民法で定義とルールが明文化された
  • 遺産分割前の家賃は法定相続分で各相続人の所得。分割確定後も遡らない(国税庁No.1376)
  • 親の死亡年の所得は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告(国税庁No.2022)

税務の取り扱いは個々の事情で変わります。最新の内容は国税庁の公式ページで確認のうえ、具体的な申告は税理士にご相談ください。

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出典

  • e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第605条の2・第622条の2・第896条(2026年8月30日確認)
  • 法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」(2026年8月30日確認)
  • 法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」(2026年8月30日確認)
  • 国税庁 タックスアンサーNo.1376「未分割遺産から生ずる不動産所得」(2026年8月30日確認)
  • 国税庁 タックスアンサーNo.2022「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」(2026年8月30日確認)

※ 本記事の情報は2026年8月時点のものです。