個人大家が法人化して得になるかどうかは、所得税(課税所得に応じて5〜45%の超過累進課税、国税庁 No.2260)と住民税所得割10%を合算した限界税率が、中小法人の法人税率(年800万円以下の部分15%・超える部分23.2%、国税庁 No.5759)を上回る水準に達しているかが起点になります。ただし社会保険や均等割など税率以外の負担が絡むため、損得の分岐となる具体的な金額は一律には決まりません。
「個人大家は所得いくらで法人化すると得なのか」「よく聞く『800万円』という目安は本当か」をまとめました。本記事は国税庁・総務省の公式情報をベースに、北大阪の賃貸オーナー向けに判断軸を整理したものです。具体的な金額シミュレーションは、必ず税理士にご確認ください。
賃貸経営が軌道に乗り、不動産所得が積み上がってくると避けて通れないのが、この法人化の判断です。
「800万円を超えたら法人化」という通説
個人大家の間で広く語られる目安に「課税所得が800万円を超えたら法人化を検討すべき」という通説があります。この数字は、次章以降で見る所得税の超過累進課税と法人税の軽減税率区分を素朴に突き合わせたところから来ています。
しかし本記事の整理では、この「800万円」を分岐点そのものと受け取るのは危険です。というのも、年800万円は法人税の軽減税率が切り替わる区分(国税庁 No.5759)であって、法人化して手取りが増える境目そのものではないからです。税率の話に、社会保険料や均等割といった別レイヤーの負担が重なって初めて、実際の損得が決まります。
まず税率の構造を公式情報で正確に押さえたうえで、なぜ一律の金額で語れないのかを見ていきます。

所得税は5〜45%の超過累進課税
個人の不動産所得を含む所得税は、課税所得が大きいほど税率が上がる超過累進課税です。国税庁「No.2260 所得税の税率」(令和7年4月1日現在)による速算表は次のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
ここで重要なのは、税率は所得全体にかかるのではなく「その区分を超えた部分」にだけ高い率がかかる点です。たとえば課税所得が900万円を超えた部分には33%が適用されます。さらに2013年から2037年までは、東日本大震災の復興財源として復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が上乗せされます(国税庁 No.2260)。
そのため、個人のまま所得が伸びると、上乗せ部分の税率が段階的に重くなっていきます。
法人税率は中小法人で15〜23.2%
一方、法人税は税率の刻みが緩やかです。国税庁「No.5759 法人税の税率」(令和7年4月1日現在)によれば、資本金1億円以下の中小法人(普通法人)の税率は次のとおりです。
所得の区分 | 税率 |
|---|---|
年800万円以下の部分 | 15%(適用除外事業者は19%) |
年800万円を超える部分 | 23.2% |
つまり法人の場合、所得がどれだけ伸びても国の法人税率は23.2%で頭打ちになります(令和7年4月1日以後、所得金額が年10億円を超える場合は800万円以下部分が17%)。個人の所得税が最大45%まで上がるのと対照的です。
ただし注意点として、ここで示したのは国税である法人税の税率です。実際に個人と比較する際は、これに法人住民税や法人事業税を加えた「実効税率」で見る必要があります。実効税率の算定は自治体や所得規模で変わるため、正確な比較は税理士に依頼するのが確実です。

限界税率で読む「分岐の考え方」
法人化の損得は、突き詰めれば「所得の一番上の部分にかかる税率(限界税率)を、個人と法人で比べる」という発想です。個人側は所得税に住民税を足して考えます。
個人住民税の所得割は標準税率10%(市町村民税6%+道府県民税4%)で、大阪市のような政令指定都市では内訳が市民税8%・道府県民税2%と変わりますが、合計10%は全国共通です(総務省「個人住民税」)。したがって個人の合算限界税率は、次のように整理できます。
課税所得の水準 | 所得税率 | 住民税所得割 | 合算(目安) |
|---|---|---|---|
330万〜695万円の部分 | 20% | 10% | 約30% |
695万〜900万円の部分 | 23% | 10% | 約33% |
900万〜1,800万円の部分 | 33% | 10% | 約43% |
※所得税には別途、復興特別所得税2.1%が上乗せされます(国税庁 No.2260)。
この合算限界税率が、法人側の実効税率を上回るほど、上振れした所得を法人に移す節税余地が広がります。本記事の整理では、これが「法人化はいつ得か」を読む骨格です。個人の限界税率が30%台に乗ってくる水準が一つの目安として語られるのはこのためですが、あくまで税率だけを見た場合の話である点に注意が必要です。
税率だけで決まらない—法人化のコスト側
ここまでは税率の比較でしたが、実際の損得はコスト側を差し引いて初めて確定します。法人化には税率メリットと引き換えに、次のような負担が加わります。
- 社会保険の加入義務: 法人は原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必要になり、会社負担分が発生します。
- 赤字でも課される均等割: 法人住民税には所得に関係なく課される均等割があり、賃貸経営が赤字の年でも納税義務が生じます。
- 設立・維持コスト: 設立登記の費用や、毎年の申告・記帳にかかる事務負担・税理士報酬が増えます。
一方でメリット側には、役員報酬に給与所得控除を使えることや、家族を役員にして所得を分散できること、欠損金の繰越期間が個人より長いことなどがあります。つまり法人化の判断は、税率差というプラスと、社会保険・均等割・実務コストというマイナスを合算した総合収支で決まります。この収支は物件数・家族構成・他の所得の有無で大きく変わるため、「所得いくらで得か」を一律の金額で断定することはできません。具体的な分岐点は必ず税理士に試算を依頼してください。
北大阪の個人大家に固有の論点
北大阪(新大阪・十三・淡路)で賃貸経営を続けるオーナーにとって、法人化は単独の税務判断ではなく、規模拡大の設計とセットで考える論点です。
家賃設定や空室対策で収益を積み上げた結果として不動産所得が伸びていくと、個人の限界税率が上がり、法人化の検討ラインに近づきます。逆に言えば、いま個人のままでも、収益改善の打ち手を進めるほど将来の法人化判断が現実味を帯びます。家賃の決め方は 北大阪の家賃設定は3層分析—HOME's・国交省・競合で決める、空室の埋め方は 空室対策、まず何から?リフォーム回収5-7年が判断の境目 を参照してください。
また、複数物件への拡大を見据えるなら、投資利回りの読み方も判断材料になります。詳細は 新大阪の中古マンション投資—表面利回り5〜6%と114ha再開発 をあわせてご確認ください。なお、法人・個人いずれの場合も、賃貸契約の基本ルールは 大阪は礼金ゼロが標準—北大阪エリアの賃貸契約と初期費用の基礎 が土台になります。
まとめ
個人大家の法人化を判断する際のポイントを整理します。
- 起点は限界税率の比較: 所得税(5〜45%の超過累進、国税庁 No.2260)+住民税10%(総務省)の合算限界税率が、中小法人の法人税率(年800万円以下15%・超23.2%、国税庁 No.5759)を上回る水準に近づくかで読む。
- 「800万円」は税率区分であって分岐点ではない: 年800万円は法人税の軽減税率が切り替わる区分。法人化して得になる境目そのものではない。
- 税率だけでは決まらない: 社会保険の加入義務・赤字でも課される均等割・設立/維持コストを差し引いた総合収支で判断する。
- 北大阪の大家は規模拡大とセットで: 家賃設定・空室対策で収益が伸びるほど法人化ラインに近づく。収益改善の打ち手と一体で設計する。
税率の構造は公式情報で明確ですが、実際に「自分の場合いくらで得か」は物件数・家族構成・他の所得で変わります。具体的な分岐金額のシミュレーションは、必ず税理士にご確認ください。
※本記事の税率情報は2026年7月時点の国税庁・総務省の公式情報に基づきます。制度改正の可能性があるため、最新情報は各公式ページでご確認ください。



