賃貸物件を借りる前に受ける「重要事項説明」は、宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)35条にもとづく法定の手続きです。宅地建物取引業者は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、法律で定められた事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定められています(35条1項)。説明するのは宅建士に限られ、営業担当者では代われません。説明のときには宅建士証の提示が必要です(35条4項)。
本記事は、宅建業法35条と施行規則(昭和32年建設省令第12号)の条文を起点に、借主が重要事項説明で見落としやすい要点を整理したものです。具体的な記載内容は物件・契約により異なるため、最終的な確認は説明を担当する宅建士に行ってください。
重要事項説明が法律で義務づけられている理由
重要事項説明は、物件の情報を多く持つ不動産会社と、情報の少ない借主との差を、契約前に埋めるための制度です。宅建業法は1952年(昭和27年)の制定当初から宅建士(当時の呼称は宅地建物取引主任者)による説明を柱に据えており、説明を怠った宅建業者は業務停止などの監督処分の対象になります(国土交通省)。
制度上のポイントは、説明の「担い手」と「時期」が固定されている点です。説明は宅建士が行い、時期は契約が成立するまでの間と決められています。契約書にサインした後で初めて重要な事実を知る、という順番にならないように設計されています。
2022年5月施行の改正では、35条書面の押印が不要となり、相手方の承諾を得れば書面の電子交付やテレビ会議等を使った説明(IT重説)ができるようになりました。書面への宅建士の記名は引き続き必要です(35条5項)。オンラインで受ける場合も、宅建士証の提示など基本の手続きは変わりません。

重説と賃貸借契約書はどう違うのか
重要事項説明書(35条書面)と賃貸借契約書は、名前も役割も異なる別の書面です。混同されやすいため、位置づけを整理します。
観点 | 重要事項説明書(35条書面) | 賃貸借契約書 |
|---|---|---|
根拠 | 宅建業法35条 | 民法・借地借家法の賃貸借の合意 |
交付の時期 | 契約が成立するまでの間 | 契約成立時 |
目的 | 契約するかを判断する材料の提供 | 成立した合意内容の確定 |
説明者 | 宅地建物取引士(記名が必要) | 貸主・借主(当事者) |
重説は「契約するかどうかを決めるための情報」、契約書は「決めた内容を残す書面」という関係です。両者は記載が重なる部分もありますが、重説の段階で疑問を解消しておくことが、契約後のトラブルを避ける前提になります。契約条項そのものの境界線は 北大阪エリアの賃貸借契約の基本 で扱っています。
35条書面に必ず記載される共通事項
賃貸を含むすべての取引で説明される共通の事項があります。宅建業法35条1項と施行規則にもとづく主な項目は次の通りです。
- 登記された権利の種類・内容: 抵当権などが設定されているか
- 法令上の制限の概要: 都市計画法・建築基準法などにもとづく制限
- 飲用水・電気・ガス・排水施設の整備状況: 未整備の場合は整備の見通し
- 水害ハザードマップ上の対象物件の所在地: 2020年8月施行の施行規則改正で追加。水防法にもとづく洪水・雨水出水・高潮のマップ上の位置を示す
このうち水害ハザードマップの項目は比較的新しい追加です。マップ上でおおむねの浸水想定区域を確認できますが、示されるのは物件の所在地であり、被害を予測するものではありません。北大阪エリアは淀川沿いの低地が広がるため、この項目は特に確認する価値があります。土地条件の背景は 北大阪エリアの賃貸借契約の基本 でも触れています。

賃貸(貸借)に特有の記載事項
建物の貸借では、施行規則16条の4の3で、共通事項に加えて貸借ならではの説明事項が定められています。生活と退去に直結する項目が並びます。
- 契約期間・契約更新に関する事項: 期間、更新の有無と方法
- 用途その他の利用の制限: ペットの飼育、楽器の使用、事務所利用の可否など
- 敷金その他契約終了時に精算される金銭: 退去時にいくら戻り、いくら控除されるか
- 管理の委託先: 建物を管理する会社の氏名・住所
- 台所・浴室・便所などの設備の整備状況(建物の貸借の場合)
- 契約の解除・損害賠償額の予定または違約金に関する事項(定めがある場合)
これらは物件ごとに内容が変わります。同じ北大阪エリアでも、ペット可か不可か、更新料の有無、短期解約違約金の有無は物件により異なるため、重説の該当欄を一つずつ読み合わせるのが確認の基本です。
借主が見落としやすい3つの軸
共通事項と貸借の特有事項は数が多く、説明を聞き流してしまいがちです。本記事の整理では、借主が優先して確認したい要点を次の3軸に絞り込みます。いずれも「入居後・退去時に効いてくる」項目です。
軸1: 契約形態(普通借家か定期借家か)
契約が普通借家か定期借家かで、住み続けられる期間の安定性が変わります。定期借家は期間満了で確定終了し、再契約は新規扱いです。重説と別紙の事前説明書面で「期間満了により終了する」と明示されていれば定期借家です。転勤や建替え予定の物件で使われることがあるため、長く住む前提なら重説の契約形態の欄を最初に確認します。
軸2: 退去時に戻らないお金
敷引特約、原状回復の負担区分、短期解約違約金など、退去時に手元に戻らない金銭の設計は重説で示されます。原状回復については、国土交通省のガイドラインが通常損耗と故意過失を区分していますが、契約書に特約がある場合はその内容が優先されることもあります。負担の考え方は貸主側の視点から 賃貸オーナーの原状回復ガイドライン活用 でも整理しています。重説の段階で、退去時の精算がどう設計されているかを確認しておきます。
軸3: 使用制限
ペットの飼育、事務所やSOHOとしての利用、楽器の演奏、石油ストーブの使用可否などの制限は、用途の制限として重説に記載されます。入居後の生活スタイルに直結するため、想定する使い方が制限に触れないかを重説で確かめます。制限に反した使用は契約解除の理由になり得ます。
重要事項説明の当日にできる確認手順
説明当日に借主ができる実践的な手順を挙げます。重説は情報量が多いため、事前準備と当日の確認を分けると理解しやすくなります。
- 事前に重説の写しをもらう: 可能なら説明日より前にPDFや写しを受け取り、契約形態・お金・制限の3軸に目を通しておくと、当日に質問を用意できます
- 宅建士証の提示を確認する: 説明を担当するのが宅建士であることを、宅建士証の提示で確かめます(35条4項)
- 不明点はその場で質問する: 重説は契約前の手続きです。疑問が残る条項は、契約書にサインする前に質問して解消します
- 水害ハザードマップ上の位置を確認する: マップ上の所在地の説明を受け、必要に応じて自治体の公表資料も併せて確認します
内見の段階から設備や周辺環境を見ておくと、重説の設備欄との照合がしやすくなります。内見時の確認は 梅雨前内見で住み心地を読むチェックリスト、家賃帯の把握は 新大阪駅の1LDK家賃相場 を参照してください。
まとめ
賃貸の重要事項説明について、本記事では次のように整理しました。
- 重要事項説明は宅建業法35条にもとづく法定手続きで、宅地建物取引士が契約成立前に書面を交付して説明する
- 宅建士証の提示(35条4項)と書面への記名(35条5項)が必要。2022年5月施行の改正で押印廃止と電子交付が可能になった
- 重説と賃貸借契約書は別の書面で、重説は契約するかを判断するための情報という位置づけ
- 共通事項に加え、貸借では契約期間・利用制限・敷金精算・管理委託先などが施行規則で定められている
- 借主が優先したいのは契約形態・退去時に戻らないお金・使用制限の3軸
重要事項説明は、契約書にサインする前に疑問を解消できる法定の機会です。具体的な記載は物件・契約により異なるため、最終的な確認は説明を担当する宅建士に行ってください。
※ 本記事は2026年7月時点の宅地建物取引業法・同施行規則にもとづきます。制度は改正されることがあるため、最新の内容はe-Gov法令検索や国土交通省の公表資料でご確認ください。



